2024.11.26

特集記事

文・写真: 山さん
2024.11.26

【魚沼/西福寺】 越後のミケランジェロ、石川雲蝶の驚異の彫刻大作に出会える、魚沼観光のハイライトの1つ!

魚沼 西福井寺 石川雲蝶

東京駅から僅か1時間半で行ける、遠いようで近い街「新潟県魚沼市」。その魅力を多くの方に知ってもらおうということで、番外編として現地へ遠征! 連載リポート企画第2弾は、思わず息をのむ圧巻の彫刻作品などに出会える、名刹・西福寺です。

*掲載内容は2024年10月下旬時点の情報で、内容を保証するものではありません。

*掲載写真はすべて編集部による。

スポット概要

『赤城山 西福寺』

本堂・開山堂内部撮影NG
駐車場あり
軽食販売所あり

所在地新潟県魚沼市大浦174
受付時間【3月〜11月】9:00~15:30(参拝終了16:00)、【12月〜2月】10:00~15:00(参拝終了15:30) *冬季平日は予約必要
拝観料大人/500円、中学生/300円、小学生以下(保護者同伴)/無料
定休日無休 *臨時休業あり
行き方①JR上越新幹線「浦佐駅」よりクルマで10分 *最寄り駅/JR上越線「八色駅」よりクルマで7分(徒歩の場合40分)
行き方②関越自動車道「魚沼IC」より車で7分
公式サイトhttps://www.saifukuji-k.com

【赤城山 西福寺】とは!?

魚沼 西福寺 石川雲蝶

赤城山せきじょうさん 西福寺さいふくじ》は、1534年室町時代後期に創建された500年を超える歴史ある曹洞宗のお寺。敷地内には、本堂のほかに赤と白の2つの門や、お寺といえばの鐘楼しゅろう、手入れの行き届いた庭園、さらに境内には神社もある市内有数のスポットです。

年間を通じ多くの方が足を運ばれますが、参拝者のお目当ては断然「雲蝶うんちょう 」。

稀代の彫刻家としてならし、襖絵などの様々な作品を遺した芸術家であった「石川雲蝶」の作品を、およそ20数点鑑賞できる屈指のスポットでもあるんです。

石川雲蝶とは!?

「石川雲蝶」(1814 – 1883)は東京・雑司ヶ谷に生まれ、若干二十歳で江戸彫刻を極めた早熟の芸術家です。

幕府の御用掛を務めるなど、若いころからその才能が認められていましたが、30歳頃に越後の金物商に誘われ現在の三条市へ移住。三条は当時から金物の街として栄えており、彫刻など、作品作りに欠かせないノミなどの道具をなんでも作ってもらえる環境や、いいお酒が飲める点が、本人にとって大きなメリットであったとか。

そんな雲蝶が《西福寺》とつながるのは、39歳のとき。《西福寺》23代めの若い住職が、寺を開いた開山様と、曹洞宗の開祖・道元禅師を祀るべく「開山堂」と呼ぶ別棟の建立を決意。その内外の装飾を、雲蝶にオーダーしたことが付き合いの始まりなんです。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

雲蝶の功績をたたえるべく、生誕200年を記念して2014年に制作された雲蝶像。雲蝶の肖像画等は一切残っておらず、都庁に勤務している雲蝶の末裔を参考に再現したそう。

お互い若かったこともあり二人は意気投合。制作開始から完成まで6年を要した大作ほか、「開山堂」の内外で様々な雲蝶作品を楽しめます。

雲蝶は生涯に渡り多くの作品を遺した多作の芸術家。その多くは新潟県に集中しているそうで、県内にはなんと1000点あまり(!)の作品が現存。とくに魚沼には多くの作品が残っているそう。

魚沼では、今回紹介する《西福寺》のほか、《永林寺》と呼ぶお寺で数多くの作品を鑑賞可能で、その数はなんと100点以上。《西福寺》の数倍以上所有しています。なかには、当時の住職との賭けに負けて制作したという逸話が残る、制作期間13年の大作も含まれています。

雲蝶は依頼主によって作風を大きく変える彫刻家だったそうで、《永林寺》に残る作品は女性をテーマとしたものが多いとのこと。雲蝶は仕事の大小に関わらず、手を抜かず制作を続けた職人気質の人だったそう。

後述する作品含め、県の有形文化財に指定されている作品も多いんですヨ。

「開山堂」で傑作を堪能

《西福寺》といえば「開山堂」、「開山堂」といえば「石川雲蝶」。「雲蝶」といえば『道元禅師猛虎調伏どうげんぜんじ もうこちょうぶくの図』といえるほど有名な彫刻が大きな目玉となっています!

魚沼 西福寺 石川雲蝶

「道元禅師猛虎調伏の図」

堂内天井一面に施された彫刻は、“透かし彫り”と呼ばれる、雲蝶が得意とした技法で彫られた大作中の大作。

主役となる吊り天井だけでなく、天井を取り囲む欄間、壁面に至るまでギッシリと彫刻が施されており、それはまさに息を呑むほどの迫力!!

思わずため息が漏れるほどのインパクトを、編集部のつたない写真でどこまでお伝えできるかは判りませんが(汗)、スケール感、緻密さ、迫力は必見の価値あり! きっと興奮するかと思いますが、お静かに鑑賞あれ。

その出来映えは日光東照宮を連想させるほどとして、畏敬の念を持って“越後日光 開山堂”とも呼ばれているんです。もちろん、この作品は県の有形文化財。個人的には国宝でもいいのでは!? と思えるほどでした。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

ハイライトとなる天井彫刻は、階段を上がった先に5.4m×5.4m四方の「間」があり、そこから眺めるのがおすすめ。ベンチもあり。それほど広くはないため、混雑時は少し待つ必要があります。

ちなみに、階段手前の両脇には、高さ2mに及ぶ巨大な仁王尊像(1858年製/安政5年)が二体。これは元々寺の入り口の山門(白門)にあったオリジナルで、現在山門には別の仁王像を展示中。先に紹介した雲蝶像はこの仁王尊像の制作場面を再現したものです。 

ストーリー性、色彩にも注目も

魚沼 西福寺 石川雲蝶

道元禅師猛虎調伏どうげんぜんじ もうこちょうぶくの図』には、開祖である道元禅師のほか、鯉やカメ、スズメにキジ、サル、鷹なども再現されているのですが、そこにはストーリー性がしっかりとあり、道元禅師(①)に虎が襲いかかろうとするなか、投げつけた杖が龍に姿を変え(②)・・・。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

その姿に恐れをなした虎は、文字通り尻尾を巻いて逃げていく(③)というもの。

そのすべてが木掘りであることに驚きを隠せませんが、インパクトを高める要因の1つとなっているのが色。“岩絵の具”という、鉱物を細かく砕いて作る顔料を使って再現した、鮮やかな極彩色ごくさいしきアレンジもお見事。今なお色褪せない色彩は、見る者を魅了してやみません。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

さらにこの天井含め、雲蝶の作品では「目」にギヤマンと呼ぶガラスを使っているケースも複数。例えば天井では、龍の目がギヤマン製。細かい点にも注目してじっくり鑑賞してくださいね。

作品をよく見ると分け目線のような仕切りが入っていますが、作品は6枚の板をつなぎあわせているんです。ハッキリと隙間ができているのが3本なので3枚かと思いましたが、よく見るとさらに3本あり、6枚で構成されていることが判ります。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

正面の欄間は3つのストーリーで構成されており、写真の中央のほか、その左右にも作品が連なっています。

天井を取り囲む欄間や壁にも、“透かし彫り”を使って様々な作品が。そのどれもが、1本の木をベースに丹念に彫り込んだもので、複数のパーツを組み合わせたものではありません!

ある意味、天井よりも技が細かい、雲蝶の技術力の高さが伺い知れる場所ともいえそう。透かし彫りの欄間などには遠近法を取り入れており、見る角度により登場人物の表情が変わって見える(!?)なんていう細工も。

透かし彫りは片面だけでなく、場所によっては両面(!)で施されているものも。間へと続く階段の上にある梁はまさにその好例。お見逃しなく!

「開山堂」外観にも雲蝶

魚沼 西福寺 石川雲蝶

雲蝶が仕上げた作品は内部だけでなく、「開山堂」の表側にも。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

「開山堂」正面には、雲蝶作の芸術的な透かし彫り細工が。カラス天狗がにらみつけ、堂内に邪鬼が入るのを防いでいるんです。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

30㎝以上もの太さがあるケヤキを使った、驚異的なこの透かし彫り。3D感が凄い! これを1本の木から生み出すなんて。ただただ繊細すぎる技には脱帽! こちらの作品にも、目にギヤマン(ガラス)が使われています。

ちなみに作品完成当時、これら外装の装飾にも岩絵の具による色彩が施されていたそう。現在は、雨風にさらされ褪色してしまっています。

余談ですが、「開山堂」を取り囲む鉄骨、気になりますよね。

これは雪対策。この地は豪雪地域。冬になるとかなりの量の雪が降るため、雪下ろしが欠かせません。

しかし、お寺によると“各家庭の設備が整ったことで雪下ろしが以前ほど必要とならなくなったため、わざわざ(危険を伴う)茅葺屋根に上って雪下ろしする方が減り・・・”と作業員が、年々減少。

景観的には賛否あるものの、1999年(平成11年)に鉄骨の囲いを設けがっしりとガードするようになったそう。時代の流れですね。

雲蝶作品は本堂にも

雲蝶といえば彫刻家のイメージがかなり強いのですが、じつは漆喰細工や壁画、襖絵など、そのほかの分野でも才能を発揮した多芸多才の芸術家だったんです。

「開山堂」完成後も、頻繁に寺を訪れ作品をのこしています。本堂には、それら作品が複数鑑賞できる特別な「雲蝶の間」というスペースも用意されており・・・。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

「孔雀遊戯の図」

大きな孔雀と白い牡丹が印象的なこの絵は、本堂と貴賓室を仕切る襖に描かれたもの。絵の主役は左から2枚目に小さく見える「石橋しゃっきょう」。不老長寿の園につながるとされる橋は善人でないと渡れず、善人であるべきと諭しているそう。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

「三顧の礼」

その裏面には、劉備りゅうび、その部下の関羽かんう張飛ちょうひ、さらに軍師・諸葛孔明しょかつこうめいが登場する「三国志」の世界が描かれています。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

「書院障子・三保の松原」

山間部雪国ではなかなかお目にかかれない、景勝地・三保の松原の風景を障子枠で再現した作品も。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

上の写真は「開山堂」へと続く「本堂」側の廊下ですが、雲蝶のこだわりは廊下にもあり・・・。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

床板をじっくり見ると、ところどころに模様が。これは“埋め木細工”と呼ばれる技法で、テーマとするデザインを木片で再現しそれを埋めたもの。写真は花菖蒲ですが、ほかにもひょうたんやナスなど、複数あり。その数なんと50以上! ぜひ探してみてください。

境内も散策しよう

《西福寺》は雲蝶目当ての「開山堂」以外にも見所あります。境内はコンパクトにまとまっていますので、ゆったり散策あれ。紹介は一部ですが、例えば・・・。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

「山門(赤門)」

境内への導線は複数ありますが、正門がこの「赤門」。左右にある石像・石柱も雲蝶の作品。

石像は火よけ地蔵、「禁葷酒きんくんしゅ」と掘られた石柱は、ニンニクやニラ(=葷)、酒を飲み食いしたあとでの立ち入りを禁止するというもの。柱の下に牛も!

ちなみに門の屋根上に並行して設置されているパイプは、雪を溶かすための地下水の噴霧用です。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

左:「山門(白門)」、右:「白山神社」

1858年(安政5年)建立の白門は、老朽化により2010年(平成22年)に大規模改修を行い現在の姿に。門の左右には雲蝶の仁王像が安置されていましたが、先述の通り「開山堂」内に移動。

現在白門に設置されている仁王像は、長岡市在住の仏師制作によるものです。

右に見える「白山神社」。《西福寺》はお寺ですが、神社もあるんですよ。

魚沼 西福寺 石川雲蝶

1本道を挟んだ場所、駐車場の脇には、軽食等を摘まんで休憩できる茶屋&お土産屋「開運堂」もありますヨ。

ちなみに、徒歩1分圏内には「雲蝶の郷 古民家カフェ」と呼ぶ気になるカフェも。ただし営業は4月〜11月までと期間限定となっていますのでご注意を。

参拝前の予備知識

●双眼鏡あると便利!

雲蝶の作品、とくに彫刻作品は緻密で繊細。天井などやや遠目にある作品も多いため、小さな双眼鏡などを持参すると、作品の凄さがさらに判ります!

●堂内は撮影禁止

「開山堂」含め、建物内は撮影が禁止です。稀に撮影がOKな場合があるようですが、基本NGです。

●ガイドは!?

単純に作品を楽しむだけでなく、深い内容を知りたい方はガイドが欲しいところですが、寺側でのガイド(職員さんによる案内)は設けていません。ガイドは各自で手配。「魚沼市観光協会」等、寺指定のガイドのみ同伴で入場が可能とのこと。ただし、ガイド付きの場合は事前予約が必須となりますのでご注意を。

ちなみに今回訪れた際には、ハイライトである「開山堂」内の天井作品がある間で、テープでの解説サービスを行っていました。

●公式動画公開中!

現地に行きたい、でも忙しく行けず・・・など、なかなか時間が作れない方、もっと予備知識を増やしてから行きたいという方は公式動画をご覧あれ。

東京からの行き方は!?

《西福寺》がある魚沼市は、越後三山只見国定公園に囲まれた盆地あり。東京から行く場合は、上越新幹線「とき」に乗り、8つ*めの「浦佐駅」で下車。約1時間半、230㎞の旅です。

*乗る時間帯により停車駅数変動あり

電車で訪れた場合、「浦佐駅」から先の選択肢は大きく2つあり・・・

【1】路線バス利用:「浦佐駅」西口からバスに乗車し「虫野上口」停留場で下車(乗車時間約10分)。そこから徒歩で約15分。バスはおおよそ2時間に1本と本数が少ないですのでご注意を。

*バス乗車料金/200円
*運行バス会社公式サイト・一般路線「小出~浦佐~六日町線」を参照

【2】レンタカー&タクシー利用:「浦佐駅」からクルマがもっとも便利で早く、10分程度とすぐつきます。駐車場もしっかり完備されていますので、クルマが断然おすすめです。

レポートまとめ♪

魚沼 西福井寺 石川雲蝶

・越後のミケランジェロ、石川雲蝶の作品を堪能!
・なかでも「開山堂」の吊り天井は必見
・彫刻以外にも様々な作品に出会えます

作品の凄さに間違いなく圧倒されるであろう雲蝶ワールドを、ぜひあなたもお楽しみあれ。JR「浦佐駅」からもほど近く、アクセスの良さもポイントです。

魚沼にはこんなスポットも!

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山さん

娘と一緒にハイキングや登山を楽しむ日を待ち望む、ただの編集者。

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